“この仕事自体がSDGs”北海道からシカ肉の可能性を広める!エゾの杜株式会社の挑戦
エゾの杜株式会社 三坂一茂様
北海道十勝産のエゾシカ肉を北海道エゾシカ認証制度の衛生マニュアルに基づき解体処理し、加工・販売をしているエゾの杜株式会社さん。 代表取締役である三坂さんは複数の企業を経営する傍ら、自らもハンターと活動、“戦後の政策により増えすぎたエゾシカを有効活用し、おいしいと思ってもらえる商品を届けたい”との想いで日々商品開発や流通に取り組まれています。 今回はふだんなかなか見聞きすることのない狩猟・ハンターのお話や、想いを伺いました。
『できることをやる』“有害鳥獣”エゾシカを活かす取り組み
―まずは、エゾの杜株式会社さんについて教えてください。
北海道の十勝平野のやや真ん中より東部に位置する“池田町”という町で、北海道に生息するエゾシカを、認証制度の衛生マニュアルに基づき解体処理をしています。
十勝地方は豆類、ジャガイモ、甜菜、トウモロコシを生産する穀倉地帯で、さらに海岸方面ではミネラルが豊富な牧草が生産されている日本一の食糧基地ですが、そんな十勝でつくられたおいしい食材や、”十勝ワイン”の町としても知られる池田町のワインを使って商品の開発なども行っています。
―北海道はおいしい食材の宝庫ですよね!会社を設立されたきっかけはどのような理由だったのでしょう?
もともと明治の時代に入植してから、北海道のシカっていうのは革製品や肉の缶詰工場等いろいろと利活用されるようになり、北海道で加工して、ほとんど北海道以外の所で消費されて、という乱獲が進んだんです。加えて2メートルくらいの大雪により身動きがとれなくなったりして絶滅の危機を迎えたこともありましたが、戦後の保護政策で頭数が回復してきました。ただ、今では北海道全域に生息地を広げ、農林業に被害を及ぼす大きな社会問題になってしまったんですね。
そうした経緯で農林水産省も補助金を出したりして。1頭取るとハンターになんぼという報酬を与えて、有害鳥獣駆除というのもどんどん奨励していろんな事業に予算を付けて頭数を減らす事業をやってきてるんですよ。その中で、さらに“有効活用”というのも始まったんですけども今のところ名目は有効活用という名前を使ってますが、実際付けてる予算については、ほとんど頭数を減らすための事業をやってるというのが現状なんです。だから、なかなか有効活用が前へ進まないで、捕獲頭数の1割ぐらいしか現実には活用されてないんですね。増えてきて1割なんです。それ以外は、いまだに処分されているのが現実。それも、適正に処分されてるのかどうかは疑問ですよね。
―そのような状況の中で何かできることがないかと考えられていたんですね。
はい。私自身もハンターをずっとやってきてるものですから、数十年来エゾシカは有害鳥獣として捕獲され、北海道の貴重な資源を活かすことなくそのほとんどが廃棄されているのを目の当たりにし、どうにかこの資源を活かすことができないかと常日頃から考えていました。
当社としては、何とか早い期間のときから有効活用したいということで、いろいろ計画練ってたんですけども、それなりの資金が要りますんで、町と交渉して、農林水産省の補助金を使って、厳しい条件のエゾシカの認証制度を取得した解体加工施設を造ったんです。
―素晴らしいです。会社として設立されたの2016年かと思いますが、規模感としては何名くらいでやられているのでしょうか?
解体工場のほうには、30代の男性1人と、それから20代の女性が1人です。人数的には足りないんですけど、コロナでどうしようもなくて、人員削減したりしています。
エゾシカってすごい大きくて、3歳ぐらいでオスジカでしたら、体長190cm、100キロぐらい。メスでも、一般的な2歳、3歳ですと60キロぐらいはあります。本州ジカみたく40キロとかそういうシカじゃないので、それをひっくり返すだけでも大変な作業だと思うんですけど、女性も頑張ってやってくれてます。大変助かってます。
仕入れ自体はハンター歴30年以上のベテランハンターの協力のもと行っています。当社のハンターはものすごく腕のいい人ばかりで、大体300メートルからでも首、頭を撃ってますから。
―300メートル?!
そう。北海道の畑って広いものですから、畑の長さは200メートル、300メートルってざらなんですよ。それで、やっと山際ぐらいまで届くとか。それぐらい撃てないと北海道でハンターできないような、そういうようなイメージで持ってもらえれば間違いないと思う。
それなりの熟練のハンターが大切で、今、一番捕獲して持ってきてくれるハンターは60代、70代です。それなりに時間もありますからね、そのぐらいの年齢になると。リタイアもして、専門にそれだけやってる方とか。他でもそういう方、かなりいます。今残ってる方は、それなりに腕のいい人ばかりなので、だからわれわれも信頼を置ける。だから逆に言えば、しっかりとしたとこを撃って、持ってきてくれてるんですけど、ちょっと外して他の所に当たったら恥ずかしそうに持ってきたり、持ってこなかったり。それなりのプライドが皆さんあるもんですからもうちょっと暖かくなったらすぐ射撃場行って、練習しに行ったりするんですよ。それぐらいのプロ意識というか、自己満足の世界というか、そういう人が残ってますね。
-プロハンターさんたちと一緒に、エゾの杜株式会社さんも一緒に取り組まれているんですね。
そうです。ハンターの方がいないと、うちらも成り立たない。逆に言えば、今後心配ですね。10年たつと、ハンターが半減するという。半減した中で、果たしてそれだけの腕のいいハンターが残ってもらえるかとか、次の世代が育ってくるかどうか、後継者問題は大きな課題です。いろんなことを考えなきゃなと思うんですけど、なかなか自分一人の力だけでは難しいので、副会長として携わっている北海道猟友会としても新人の養成のこととか、常にいろんな仕事考えないと思ってます。最近、女性のハンターもどんどん増えてますね。
世の中すべての仕事がサービス業なんです
―三坂さんご自身のお話もお聞かせください!
私自身もハンターを今も続けています。35、36年になるかな。仕事も三つ、四つやってます。会社経営としては2つほどやっており、一つは建設業をやってまして。もうリタイアメントなので、もうそろそろ静かにあちこちたたんでいこうかなってイメージですけども。それでもできれば、まだ別なことをしたい。何かがしたいんで、常に明日のことしか考えていません!どんな生き方しても、一生は一回なんで。昨日の失敗は取り返せないし、戻ることもできないんで、そんなの気にしてたら生きていけないです。毎日が失敗の連続なんで、楽しまないと。でもいろいろとばたばたしてます。別のこともやってるので。ほとんど時間が足りない(笑)
―色々と取り組まれていてすごいですね。1日のスケジュールとしてはどう過ごされているんですか?
1日のスケジュールは、朝、8時に会社に出てきて、帰るのは6時で、それでご飯食べて、風呂入って、9時からまた会社出てきて、12時まで仕事したら帰ると。1時間テレビ見て、寝ると。それの繰り返し。今年は、それでも元旦休んでますから大丈夫です。趣味兼仕事みたいな感じで、別に仕事が苦になったことがないし、うちのやつには面白くない人だって言われるけど。(笑)
―どのような経緯で今のような働き方になったのですか?
もともと人の金勘定をする事務方をしてたんですが、自分に合わないな、面白くないなっていうのが自分の素直な気持ちで…でも昔から常に二つ以上の職業を持ちながら仕事してたんで何とかやれたんです。その後もう絶対に事務方はやらないとか、人相手にした商売はやりたくないっていうので、こういう別な建築とか、そっちのほういったんですけど。結果、常に全てが、世の中の仕事全部がサービス業、必ず相手いるということに気づきました。人からは逃げられないんです。そこに気付くのがだいぶ遅かっただけであって。ものづくりしていれば、人を相手にしないでも仕事できると思ったんですけど、違いますよ。やっぱり相手。お客さまがいないと成果も出ないです。
そんなこんなで事務方が嫌で辞めたんですけど、この年になってからびっちり事務方ですよ。会社二つの経理から何から全部。営業から販売、経理まで。事務員雇うお金がないもんですから。だから、時間がない…(笑)
“これがジビエ?!”と一度食べるとファンに
―エゾの杜さんの商品についてもお聞かせください。色々な商品をお持ちですよね!味付け肉にカレーにハンバーグに…SNSでも試作品を挙げられているの拝見しました!
一般のお客様向けのレトルト小売商品としては、カレー、ワイン煮込みハンバーグ、それともみじ丼というのを売っています。それ以外にも冷凍ものでは、エゾシカの肉まん、それから普通のハンバーグと、山幸ハンバーグという2種類のハンバーグがあります。あとはただのスライス肉、食べやすいようにした焼き肉、バーベキューでも何でも使いやすいようにした各部位のスライス肉、味付け肉など色々とあります。バーベキューセット辺りはかなり需要が高いですね。ふるさと納税も出てますし、そういうので一般ユーザーが少しでもシカの味を覚えてもらいたいなと思って。
ジビエって、昔食べたことがあるおじいちゃんおばあちゃん世代にとっては実はイメージが悪いんです。昔は衛生状態も整っていないような状態でハンターが捕って処理した肉を、そんな食べきれるものではないので近所中に配って歩くんですよ。だけど近所の人はみんなもらっても、食べ方も分からないし、処理もしっかりしてないし…って状態でもらうと、今度はシカに対する悪いイメージがついてしまうんですね。臭いとか、硬いとか、そういうイメージで、もうシカなんか食べたくない!とか、見たくない!って、そういうのが一般的なイメージだったんです。
だけど、われわれの施設ができてからいろんなイベントで食べさせたりすると、「えっ、これシカ肉なの?」って、「全然臭みがない。癖ないんですね、おいしい」っていう言葉が返ってくるようになったんです。だから、どれだけしっかり処理して、どれぐらいの年齢のシカを流通させるかによって、相当風味も変わってくるんですよ。
―そういった反応があるのは嬉しいですね。一番人気の商品は何ですか?
カレーとか、煮込みハンバーグは、ほぼほぼ主流になってますね。
当社の場合ね、全てが手作りなんですよ。ハンバーグも全部手ごねで型にはめてる。計量して、空気抜いて、型に詰めて作って、全部手作業なんです。自己満足ですがすごい手間がかかってます。
▼ジビエ料理の入門に作りました。野菜の甘みもたっぷりと出るように配合を決めました。
エゾ鹿肉と野菜ゴロゴロカレー
十勝産のエゾ鹿肉と北海道産の野菜をゴロゴロと入れてカレーを作りました。
大人から子供まで鹿肉を楽しめて栄養価のあるカレーです。
先程ちらっと話した“山幸(やまさち)ハンバーグ”という商品があるんですけど、これなかなか聞きなれないものだから、ちょっと売れ行き悪いんですけど、地元では分かってて買ってくれる隠れた人気商品で。
山幸っていうのは私のいる池田町が品種改良して作ったワイン専用のブドウで、2021年に日本で3番目にOIV(国際ブドウ・ワイン機構)に登録されたんです。そのブドウを使っておそらく日本で唯一だと思うのですが、池田町がアイスワインを作ってるんですね。アイスワインって零下15度以下になって、凍った状態のブドウを収穫してきて、すぐ機械にかけて絞るんですけど、わずか数滴しか絞れないんです。
その絞った残ったブドウを、うちのほうで手に入れてきて、それをさらに一つずつ房から外して、それを今度一回水洗いした後、24時間ぐらい乾燥させて糖度が23度ぐらいまで上がってるものすごい糖度の高いほぼ干しぶどうに近い状態のものを粉砕してハンバーグに入れているんですね。
お客さんからの評価もとてもよくて、リピーターになってわざわざ買いに来られる方もいて、“いつもハンバーグを食べているけど山幸のハンバーグが一番大好き”っていう方や、“この組み合わせは今までにない、おいしい!”と言ってくれるんです。結構、地味ですけど、少しずつ何とかこうやってファンが出てきてくれて嬉しいです。うちらは、そうやって今できることを最大限にやって、おいしく食べてもらいたいという、それだけが目的でやってるものですから。他に何もありません。
―いいですね!私もとても食べてみたくなりました!
ぜひぜひ。本当にハンバーグ自信あるし、うちはソースなんてかけなくても、塩だけで食べられるハンバーグになってるので。よくスパイスソルトとか、ニンニク、岩塩とか、ちょっとかけると、すごく素材もしっかりと味が出てきますので。
うちは肉屋なので見えないぐらいの肉入れるの嫌なのでカレーでもなんでも、肉はたっぷり4個、5個、ごろごろと入れて、野菜もごろごろとです。地元十勝のなんぼでも自信を持っておいしいと思える素材を使ってますので、おかしなもんが一切入っていないので安心して皆様に食べてもらいたいです。
今、おかげさんで、若い人が出入りしてくれてるもんですから、ターゲットは次の世代の方なんですよ。この間、うちにアルバイト来ていた台湾からの留学生の女性に肉まんを食べさせたら、“日本に3年いるんですけど、一番おいしい肉まん食べました”って。“台湾の皮とここの皮は同じだと、中のあんもぎっちり入っていて、すごくおいしい”って。「いろいろ改良していかなきゃね」って言ったら、「これ以上、改良しないでください」と。(笑)
-料理店などBtoB向けに卸す際などはまた違ってくるのでしょうか?
そうですね。シェフによっていろいろ希望がありますし、要望によって提供する部位を変えています。人気の部位は、ロースのようなもも肉辺りが主流になってくると思うんですが、もも肉でも当社の場合は、内ももとか、外もも、しきんぼ、それからすね肉と分かれて販売してるので、レストランのシェフからいろいろ相談受けるんですよ。“こういうふうに作りたいんですけど、どの部位を使ったらいいですか?”とか。売れ残ったやつを売ればいいんですけど、お客さんに提供するから、“もし初めてシカ肉使うんだったらこの部位がいいですよ”とか“いろんな部位をサンプルでお送りして、どの部位が必要か書いてくれれば送りますよ”なんて、こういう商売やってしまうもんですから……(笑)
―おいしいって思っていただきたいですもんね。
本当にそれに尽きます。シカ肉を普及させたいので、初めて食べて、ああ、嫌だったって思われるのが一番嫌なんです。それでいろいろ打ち合わせをして、だんだん扱いなれてきたシェフには、“ここ使ってみたらどうですか”とか、“この部位は安く提供できるんですよ”とか、いろいろお話しするんですよ。そうすると、シェフも乗り気になってがんがんやってくれるようになります。楽しいんですよ、こういうのって。新しいこういう料理ができましたとか言ってもえるのは、すごく成果が出ればありがたいっていうかね。そういう楽しみがあって、やっています。
ジビエを身近に感じてもらえる機会を増やしたい
―エゾの杜株式会社さんとして今後取り組んでいきたいことはどんなことですか?
ひとつは販路を築いていきたいですね。絶対にモノはいいと思うんですけどハンバーグとかこういう加工品については、なかなか販路が築けなくて苦労してるので。都内のショップとかそういうとこに置くってなると、ツテなどいろいろなものがないとなかなか難しいものですから。バイヤーズキッチンも含めて、今後の販路を築けるようなところを何とかお願いしていきたいと思っています。他にも、今も愛媛の野生鳥獣の解体している会社と一緒に新しい商品をつくったり、シカ肉フェスタを開催したり次から次に考えているので、その動きもがんばっていきたいですね。最近はSDGsとかよく聞きますけど、この仕事自体がSDGsだなと思います。
あとはコロナの影響で当社のほうも流通が2020年春からゼロに近い状態が続くくらい厳しいので安定的に需要と供給ができるようになっていけるといいなと思っています。
このコロナ禍でエゾシカの認証施設も野放し状態のときは100社超えていたところが今、多分、コロナで相当閉鎖してきてると思うんですね。飲食とか、宿泊だけがクローズアップされて、いろんな補助をもらってますけども、ここに対する納入業者はもっと厳しいんですよ。ましてや、当社はエゾシカに特化してますので、こういうエゾシカってなると今のところ、常に食卓に乗るとか、そういうふうな商品ではないですし、割と嗜好品の部類だと思うんですよ。そこまで安定供給もできるようなものではないと思うので。
-一般消費者さまに向けての課題やバイヤーさんへの思いはありますか?
身近に食べられる機会を与えないと、消費者が振り向いてもらえないというところが課題だと思ってます。ジビエって高級志向で、立派なレストランとか、そういうところ行かないと食べられないとか、そういうイメージがまだあると思うんですよ。ですから、一般のユーザー向けにはなんとかして商品化してシカ肉全般においしいんだと思ってもらいたい。毎日とは言わないけども、何かのイベントとか、そういうときに食べてみようかとか。もっと腕のいいシェフのところに行って、たまにはもうちょっといいものを食べてみようとか。そういう意識づけをどうしていくかは、これも課題の一つなんです。
この意識付けの部分はバイヤーさんとかお客さんとつながっている人の仕事にもなっていくのかなと思うものですから、そのためには、我々がバイヤーも自信を持って販売できるような商品を作っていくこと、いかにしっかりと衛生基準に見合った食肉を安定的に提供していくかっていうことがまずは大切だと思っています。
―ありがとうございます。最後に一言お願い致します!
今のところは、まずは第一に、シカ肉を普通の人が普通に食べられるぐらいにしていきたいですね。うちとしては、ハンターもお客さまなんです。お金払って狩猟肉を買うんですけどお客さんなんです。そこも大事にしないといけないし。それを加工してユーザーに届けるのもうちらの仕事で、なかなか厄介な立場にいるもんだから、いつまでたっても強い組織にはなっていけないなという。だけど、だからこそみえてくるものもあるのかなと思っています。“シカ肉をおいしい!”と思ってもらえるよう、ファンになってもらえる仕掛けをいろんな人と作っていきたいです。
―貴重なお話ありがとうございました!
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北海道・池田町からジビエの普及に取り組むエゾの杜株式会社さん。インタビューの最中にこぼれた“この仕事自体がSDGs”という言葉や、三坂さんのバイタリティあふれる素敵なお人柄も印象的でした。きっとこの記事を読んだ方は、山幸ハンバーグをはじめとするエゾの杜株式会社さんの商品を食べてみたくなったはず!ぜひバイヤーズキッチンサイトからもチェックしてみてください!(谷口)
▼脂身の少ないモモ肉をスライスして、赤身肉の味を手軽に楽しんでいただけるようにしました。
十勝エゾシカの味付け肉モモ
十勝エゾ鹿のモモ肉にニンニクと生姜ベースのタレで味付けして冷凍品にて販売しています。
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