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【前編】~地域食品と通販の可能性~

目利きの視点

【前編】~地域食品と通販の可能性~


2020年に始まったコロナ禍を契機として、いまだかつてないほど「通販」が注目されています。 消費者に「通販」の利用価値が認識され、コロナ感染状況の大小に関わらず、今後は有望な販売チャネル として検討に値するものになるでしょう。 今回のインタビューは、通販においてそれぞれ独自のポジションを築かれている3社へ個別にインタビューし、お話しを伺いました。


株式会社三越伊勢丹 食品・レストラングループ定期宅配営業部 ISETAN DOOR マーケティングバイヤー奥村優太様】
【株式会社サンクゼール EC・DXビジネスユニット ユニット長 宮本卓治様】
【株式会社カタログハウス 食品事業部 マネージャー 横山輝様】 (左から 順不同)


各社様ともに、その沿革や通販参入に至るまでの経緯とスタイルはさまざまで、探しているもの・条件なども異なりますが、地域食品に対しては共通して熱い想いをお持ちです。
通販業界の現在の状況と今後の動向について、そして地域食品メーカー様が通販を通じて発展していくには、何が必要なのか、お話ししていただきました。〈前編〉〈後編〉の2回に分けて掲載いたします。


通販事業と、コロナ禍の影響について

――御社の通販事業の特徴ついて、またコロナ禍による影響・変化はどのようなものだったのか、お話しください。


株式会社三越伊勢丹 奥村様

弊社が運営している「ISETAN DOOR」は、2018年の6月にオイシックスさん(オイシックス・ラ・大地株式会社 以下オイシックス)をビジネスパートナーとして、三越伊勢丹が展開する宅配事業という位置づけで開始しました。事業をリリースしたのはコロナ禍になる前です。
”伊勢丹(の商品)が自宅に届く”というコンセプトを基本にやってはいたのですが、お客様がそれを「じゃあ買おう」という“きっかけ”がなかなか無かったので非常に難しく、初年度は現在と比べるとそこまで認知いただけていない状況でした。
ですが、コロナ禍になると、一時期は店舗の人数を制限したり、百貨店の”空間が危ない”といったようなニュースも流れたりしましたよね。そのため伊勢丹新宿店も休業をするなど、お客様が実際に店舗に行くことができない状況になりました。
「週に一度、お店へ通っていたが行けなくなった」、また「旅行に行けなくなったから百貨店の本当においしいものが欲しい」など、お客様のそういったコロナ禍に対する想いが一つのフックとして、多くの方に認知いただけるチャンスが増えたと思っています。そこからは、今に至るまで1.5倍ぐらいずつ成長しています。
メーカー様に関してお話ししますと、コロナ禍前は店舗で”北海道展”や”京都物産展”などや、地下の食品売り場の週替わりの催事などが行なっていましたが、コロナが拡大すると休業になるなど、その催事のために地方のメーカー様が東京に来て販売することが難しくなりました。そういった地方のメーカー様にネット通販についてお声掛けすると、”新規開拓になったのでありがたい”という事を言っていただけました。
メーカー様が検討しなければならないのは、従来の百貨店ビジネスとこの定期宅配通販サイトでは利益構造が違い、取引条件を変える必要があるという点です。条件が合わない、という可能性も当然出てきますが、店舗で一日何百人かのお客様に売るのと、一週間で何万人ものお客様と商売ができる、という”数量のメリット”は大きいと思っています。


株式会社サンクゼール 宮本様

「久世福商店サンクゼール」のECサイトは以前からあったのですが、「旅する久世福e商店」は2020年の10月5日にオープンした、全国の生産者様に出展いただき、産地直送で販売するという”モール型”のEC店舗です。もともと私たちは、久世福商店の店舗の運営をメインで展開しているのですが、ECモール構想についてはコロナ前にも考えていました。
コロナ禍の2020年の7月に、弊社の社長が長崎の壱岐対馬に行き、生産者様がコロナ禍の影響で、外食産業などの売り先を無くしてしまったという切実なお声を聞きました。一方で、そこで見た・食べたものは本当に美味しく、「こういった商品をお取り寄せできたら、外出し難い状況のお客様は喜んでくださるのではないか、しかも生産者様の手助けもできるのではないか」という事で、コロナ前に議論されていたECモール構想への着手を前倒しすることになりました。
すぐに出店開拓チームが 日本全国の生産者様に会いに行き、出店に向けたお話を進め、平行してITチーム、サイト構築チーム、また全国の実店舗のメンバーもサイト構築に参加し、なんとか2020年10月5日に「旅する久世福e商店」をプレオープンすることができました。
スタート時、 モール内の店舗数は約100店舗でしたが現在は約300店舗まで拡大しています。直近の単月売り上げは前年比800%を超えて、現在も拡大を続けております。


株式会社カタログハウス 横山様

弊社は、もともと前身が「ヘルス」という通信教育の会社でした。そこでランニングマシーンの「ルームランナー」が大ヒットし、物販に乗り出しました。その当時は新聞広告の通販でしたが、しばらくして自社で媒体(カタログ)を出してこだわりの雑貨を売る、という形になりました。
食品の取り扱いについては、本格的に始めたのは「益軒(えっけん)さん」というカタログを発行し始めた2年前からになります。江戸時代に「養生訓」という書物を書かれた貝原益軒という方に因んだ名前です。
Webサイトでの通販自体は15年以上前に始めていますが、やはり現在もカタログでの売り上げ比率が高くなっています。弊社の場合はやはり“雑誌”としての付加価値が高く、”読み物”として「通販生活」というものがあり、“買い物をする”前に、通販生活を”読んで楽しむ”というところが前提になっています。ネット通販サイトは、”カタログを見てウェブで購入を申し込むツール“として使われる方が結構多いですね。
コロナ禍の影響としては、私どもは百貨店さんで催事を行う部隊もありますので、当然そういったところはかなり激減しました。
ただ会社としての売上は、追い風の部分と逆風のところがありました。弊社は大きく言うと、「雑貨」「アパレル」「化粧品」「食品」の4ジャンルがあり、売上比率では「雑貨」が一番高いのですが、その「雑貨」で言うとまず旅行用品、あとは「アパレル」「化粧品」など、やはり“外出できない”ということに比例して売り上げが厳しくなりました。一方で「衛生用品」及びコロナに関連した商品は売れて、もう全く足らずに供給できないような状況になりました。それに加えて、「食品」が追い風になって売上げをカバーした形になりました。総合通販の会社なので、マイナスになった商品とプラスになった商品があり、ちょうどニュートラルになった、というところですね。


――3社様それぞれ通販の取り組みの経緯と形態は様々ですが、やはりコロナ禍の影響は大きいものでした。一方で、苦戦したジャンルはあるものの、特に「食品通販」は良い方に作用して各社とも売上げに貢献したようです。

次に、食品について詳しく伺っていきます。


コロナ禍で売れた通販食品とは?

――その「食品」の中でもコロナ禍の最中に特徴的な動きのあった商品とはどういうものでしょうか?


株式会社三越伊勢丹 奥村様

コロナ禍の期間中では大きく何かが変わったという印象はないですが、日常品の納豆やお豆腐、オイシックスさんのお野菜などの単品のものをお買い求めになられていた方の割合が多かった傾向から、ちょっとひと手間掛けて自分で作る”ミールキット”のような商品に「拡がっている」、というような状況です。
また、やはり旅行に行けないというところで、各地の名産品・物産品というのは順調にご愛顧いただいています。


株式会社サンクゼール 宮本様

2020年の4月・5月には、”おうちごはん”の需要が高まりもあり「パスタソース」であったり「ご飯のお供」など、“簡単に家で使える”“ご飯に使える”、といったものが大きく伸びました。また、ギフト商品も本当に想定以上に伸びて、今度は出荷をするのが課題になるという事が発生しました。注文の時にお客様から「コロナ禍なのに頑張ってくれてありがとう」とか、そういったメッセージもあったりして、モチベーションにもなり、全社を挙げて出荷の作業を行いました。
現在は、単品の売れ行きについては落ち着きが出てきたと思いますが、遠方に贈るためのギフトを通販・ネット上で選ぶ、という生活の変化は定着したのか、ギフトはまだまだ非常に伸びていると感じています。


株式会社カタログハウス 横山様

コロナになってからは「美味しいもの」、「自宅で簡単に料理店のようなものが食べれる」みたいなものが非常に売れてます。一番感じるのは飲食店の商品が多くなっている点です。今まで非常に好調であった全国の有名店でさえ、もろにコロナの影響を食らい売り上げが激減しています。その飲食店で作ったものを冷凍して通販するということが非常に増えています。
あとは冷凍食品です。例えば、とれたての生魚を直ぐ冷凍して、それを解凍した時の鮮度は非常に高く、お客さんも”冷凍食品でも美味しい”という事に気づいて来ているので、冷凍の割合は今後も増えていくと思います。現在は冷凍技術も非常に高くなってきていますので、産地が遠く離れていれば離れてるほど魅力を活かせるんじゃないですかね。


――コロナ禍では、 “外出できない”“外食しづらい”といった消費者の方々の生活環境の状況が、通販商品の需要にそのまま反映されているように考えられます。今後の“物産品・ギフト商品”“冷凍食品”の需要の増加という傾向についても各社様ともに共通の認識をお持ちでした。

 それでは次に、各社様それぞれの通販の特徴についてお聞きします。


3社様の特徴と、amazon・楽天との違いとは?

―― 通販業界の中で御社は独自のポジションを確立しています。amazonや楽天などのショッピングサイトを含めた、他社との違い・特徴についてお話しください。


株式会社三越伊勢丹 奥村様

ISETANDOORは”定期宅配”という建付けにしているので、お客様に毎週ご購入いただく商品、継続的にご購入いただける商品を仕入れています。例えば1週間で使い切る物や毎週食べたいと言っていただける商品です。他の宅食会社などとの違いとして、一番大きいのは『三越伊勢丹のバイヤーが商品を選定している』という事です。それは暖簾を背負っている一つの「安心感」であり、美味しいものを知り尽くしている「プロが選んでいる」という事がまず第一にあります。例えば”伊勢丹新宿店に入っているブランドの商品”さらにそのブランドの「ISETANDOOR限定の商品」が届くなども、そこが他の通販会社さんと大きく違う点ですね。

amazonなどは、例えば「ワイン」と検索すると色々な会社が出店していてその商品が一律に表示されます。ISETANDOORは、伊勢丹のバイヤーが仕入れた商品かオイシックスさんの商品しか並ばないので、お客様にとって安心安全が必ず担保できる、という事がメリットでもあり強みかなと思っています。ISETANDOORが、もともと三越伊勢丹様に愛着を持っておられて店舗にいらっしゃるお客様と、他の宅配通販も併用されているような通販をメインにしているお客様など、様々なお客様に支えられているのも、そういった強みがあるからだと思います。




ISETANDOOR トップページ
ISETANDOOR トップページ




株式会社サンクゼール 宮本様

「旅する久世福e商店」(以下、たびふく) は、三つの点でamazon/楽天などと差別化できると考えています。

一つ目は『厳選/安心』です。「通販で食品を買って失敗したことがある」「品質が不安だ」といった心配のお声に対し、出店前試食審査を設けて、品質を高く維持するよう務めています。安心して日本全国の美味しいものがお取り寄せできる、これが最大の差別化ポイントだと思います。

二つ目は『発掘力』です。“たびふく”には、「食べてみた」という人気コンテンツがあります。こちらで紹介した商品は多くのお客様にご購入いただき、その後高評価レビューもいただいております。「食べてみた、があるから安心して買える」といったお声もいただいております。このコンテンツを起点にその後売上が伸びている商品も多く、生産者様に対しても、EC販売できる場を提供するだけでなく、私達も一緒になって盛り上げ人気商品を創っていく、ということができるのが“たびふく”の特徴だと思います。

三つめは『自由度』です。生産者様の視点になりますが、高付加価値な商品の価値・魅力をお伝えし、ブランディングしてしっかり販売できる、という点です。楽天に出店すると楽天色にする必要があり、独自色を出すことが難しいのですが、これが“たびふく”であれば制限なく実現できる、という強みがあります。これは付加価値の高い商品であればあるほど、求められる点だと思います。








旅する久世福e商店“食べてみた”コンテンツ
旅する久世福e商店“食べてみた”コンテンツ




株式会社カタログハウス 横山様

amazonで買う商品というのはもう既知の商品で、自分がもう使ったことがある、という商品が非常に多いと思います。amazonは”他で売れている”という歴史があってamazonで売れる、ということで、あくまでamazonというのはインフラだと思います。ですので、amazonで一から商品を売るというのは逆に言うと極めて難しいかと思います。
一方、弊社は“既知の商品”ではなくて、まだ知られていない“未知の商品”を取り扱っていて、『しっかり説明して、お客様に理解してもらい購入につなげる』、というのが一番違うところです。弊社はそこを得意としていて、表現力やコピー力っていうところがその強みなのです。また、商品企画や開発の際も、「その商品についてどこまで理解しているか」、「どこまで真剣に向き合ったか」ということが、その商品についての理解度を深めるためには重要です。弊社は雑貨であれば販売する前に使い倒して、食品であればいろんな形で味見したり、試行錯誤しながら「どういう表現が一番いいのか?」という事に時間をかけて考えていきますので、そこから出てくるアウトプットとは全然違うと思います。amazonで出店すると、結局メーカーさん自身が販売のための文章も全部amazonの代わりに作っている訳で、それはメーカーさんの売り言葉になり、客観性にもかける可能性があるのです。











――各社様とも、独自に築き上げたブランド・お客様からの信頼を大切にしながら通販に取り組まれています。それは同時に、その通販に参加される地域メーカー様のブランディングにとっても大きなメリットになると思います。

それゆえにお取引する際には、商品管理・衛生管理などの準備が欠かせないですし、生産数や運送についての条件なども十分考慮していく必要もあります。

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2022/4/19

後編は、各バイヤー様に今後の「通販」の展望、地域食品メーカー様が発展していくために必要な事を伺います。

→ 〈後編〉はこちらへどうぞ。

▼【後編】~地域食品と通販の可能性~


通販会社バイヤーインタビューの後編は、地域食品と通販との相性の良さと、地域メーカー様が取り組むべきこと、今後の通販に関する展望などについて伺います。




 
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