そこで注目したいのが、働き方や休暇制度を見直し、従業員が安心して働ける職場環境を整える取り組みです。

働きやすい職場になれば、既存社員が定着しやすくなるだけでなく、企業の評価が高まり採用面でも有利になる可能性があります。

本記事では、職場環境の改善に努める企業の事例を紹介しながら、働きやすい職場づくりのポイントを解説します。

【この記事でわかること】

●     働きやすい職場づくりが重視される理由

●     従業員が安心して働き続けられる環境を整えた企業の事例

●     企業の取り組みからわかる、職場環境改善のポイント

人材確保は「働きやすい職場づくり」が重要

労働力不足が深刻化する中、地方企業が人材を確保するためには、働きやすい職場づくりに取り組むことが欠かせません。働きやすい職場づくりとは、福利厚生の充実、柔軟な働き方の導入、評価制度の整備、キャリア形成の支援のあり方などを見直し、従業員が安心して働き続けられる環境を整えることを指します。

このような取り組みを積み重ねると、従業員は仕事と生活のバランスを保ちやすくなり、結果として既存社員の離職が起こりにくくなることが期待できます。とくに、従業員数が限られる地方企業は、一人の離職が生産体制に大きな影響を与えることも少なくありません。そのため、人材流出を防ぐことは安定的な経営や生産性の維持につながります。

また、働きやすい職場環境は、採用活動においても求職者から評価されるポイントとなり、人材確保につながる可能性が高まります。

人材不足を乗り越えるためには、人が集まり、長く働き続けたくなる職場づくりに向き合うことが必要です。

実例で知る「人が集まる職場づくり」のポイント

ここでは、さまざまな施策を通じて、働きやすい職場環境づくりに取り組んでいる地方メーカーの実例を3つ紹介します。ぜひ自社の取り組みを考える際の参考にしてください。

福井県にある「株式会社米五」は、味噌の製造を中心に、直営店やECサイトでの小売、カフェの運営など、幅広い事業を展開している企業です。

業務内容が多岐にわたることから、一部の部署や社員に業務負担が集中し、残業が発生しやすい点が課題となっていました。

そこで取り組んだのが、社員の多能工化と残業時間の「見える化」です。

同社は、社員に複数の業務スキルを習得させ、さまざまな仕事に対応できる体制を整え、業務の平準化を図りました。

また、残業時間をグラフ化して社員同士で共有したり、定時退社日を設けたりすることで、月平均残業時間の削減につなげました。

さらに、有給休暇の取得状況を社内で共有するとともに、誕生日休暇や父親の育児特別休暇、母子健康特別休暇といった独自の制度を整備し、

休みやすい職場環境づくりにも取り組んでいます。これらの施策の結果、年次有給休暇の取得率が向上しました。

この事例で注目したいのは、残業時間や有給休暇の取得状況を社員間で共有し、業務の偏りや休暇を取りにくい雰囲気といった課題を社内で可視化した点です。

加えて、社員の多能工化を進め、従業員同士が助け合える体制を整えたことも、同社の取り組みの特徴のひとつです。

多様な休暇制度と理解促進により、安心して働ける職場に

大阪府の「株式会社桃谷順天館」は、主に化粧品の製造販売を行うメーカーです。

同社は社会的な働き方改革の流れを受け、従業員が仕事と生活の調和を図りながら働ける環境を整備するため、2018年に社内プロジェクトを立ち上げました。

具体的には、フレックスタイム制やテレワーク、時間単位の年次有給休暇などを導入し、多様な働き方を可能にしました。

また、生理やPMSに対応する「エフ休暇」や、不妊治療・病気治療に利用できる「ライフサポート休暇」、子どもの学校行事などに対応する「親子の絆休暇」など、独自の特別休暇制度の整備にも取り組んでいます。

あわせて同社では、産業医による説明資料を活用し、生理や不妊治療に対して従業員の理解を深めるための取り組みを行っています。

こうした施策を重ねることで、休暇を取得しやすい雰囲気が広がり、年次有給休暇の取得率は8割を超えました。

この事例で参考にしたいのは、多様な休暇制度を整備していることに加え、その背景や目的について丁寧に説明し、従業員の理解を深めている点です。

こうした制度は導入だけで終わらせず、周知や理解促進に継続的に取り組み、実際の活用につなげることが大切です。

愛知県で農産品の缶詰・レトルトパウチ加工を行う東海罐詰株式会社は、2021年に勤務間インターバル制度を導入しました。

この制度は、終業時刻から次の始業時刻までの間に、一定時間以上の休息時間（インターバル時間）を設け、従業員の生活時間や睡眠時間を確保することを目的としたものです。

同社では、製造工程の中でも缶詰に印字する機械の清掃作業に手間がかかり、時間外労働が発生していました。

朝8時の製造ラインの稼働に合わせ、前日の夜や早朝に作業を行う必要があり、担当者の負担が大きくなっていたのです。

同社は国の「働き方改革推進支援助成金（勤務間インターバル導入コース）」を活用し、印字機械の清掃を自動化する設備を導入しました。

これにより作業時間が大幅に短縮され、時間外労働の削減と11時間のインターバルの確保が可能となりました。

従業員からは「体が楽になった」「時間を意識して働くようになった」などの声が聞かれ、負担の軽減だけでなく、生産性の向上にもつながっている様子がうかがえます。

この事例では、時間外労働の原因を明確にし、その課題にピンポイントで対応することで、効果的な職場環境の改善を実現しています。

さらに、助成金の活用により、中小企業にとってハードルとなりやすい設備投資のコストを抑えている点も参考になるでしょう。

参考：厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」

安心して働ける環境が企業の未来をつくる

今回は、働き方や休暇制度を見直し、職場環境の向上に取り組む企業の事例を紹介しました。

従業員にとって働きやすい職場環境の構築は、日々の業務への安心感や働きがいにつながり、結果として人材の定着を後押しします。さらに、企業の評価が高まれば、採用活動でも有利に働く可能性があります。

労働力不足の解消に向けて、人が集まり、長く定着する職場環境をつくっていきましょう。